愛する存在を亡くした時  喪の作業(グリーフ・ワーク)





大切な存在を失った時。

その時に、嘆き悲しみ、自分を癒すグリーフ・ワークを見逃してしまうと、

知らない間に、傷が深くなり、生活に影響をあたえることもあるのです。

恥も外聞もかなぐり捨てて、泣き叫ぶことが下手な、私達、人類。

全てかなぐり捨てて、悲しんでも亡くした存在は、返事をしてくれない。

この辛い現実を知っているのに、どうしようもない切なさ、むなしさを感じ、無情に繰り返され過ぎていく日々の中で、ただうずくまっている。
喪の作業を回避している限り、失った者に対する思いに心を奪われて、自分の心の安らぎは遠くに置かれたまま時計は止まったまま。

理性には、苦痛に対する防衛機制( そこから遠ざかろうとする )が働き、心的現実性に帰る喪の作業・グリーフワークをしなくでも
よいように振舞ってしまう。

そんな時間が流れたあと、気付かぬうちに心身の不調状態を招いてしまうのです。
心的悲哀防衛機制とは、外的社会世界とその人の内的世界へ向けて、働きかける躁的防衛。
1 悲哀を抑圧してしまう
悲哀の苦痛を忘却し、麻痺させる為にアルコールや仕事、社交、社会活動、薬物、
性的快楽などに置き換えて耽溺による逃避をする。

過剰適応の努力が挫折したり中断したりすると、再び強い悲哀が
襲い悪循環を招き、
時にはアルコール中毒になる事もある。

社会活動や勉学などによって、時に昇華を生む場合があるが、
かなり後になって鬱病を生むケースなど、逃避による様々な身体問題につながる事もある。
2 対象を置き換える
次の新しい代理対象と失った対象とを、無意識の内に同一視してその面影を見出そうとする為に、
代理対象に対する錯覚現象が肥大して、現実ばなれした関わりを期待してしまう事になる。

後に幻滅感を引き起こし、再び失意と悲哀を増幅した状態で味わう結果にもなり得る。
失速したカイトのように、その心理破綻は収拾がつかない程の絶望状態へと追いやられてしまう。
3 対象と関わっていた自分を
  排除してしまう
『自分は捨てられたのだ、愛されてなどいなかった』
『こんな事で、いつまでも落ち込んでばかりはいられない。』
『大した存在じゃなかったんだ。私はもうだいじょうぶ。』
など失った存在を軽視したり、悪玉視しようとする。

この心理の背後には、深い悲しみがひそんでいる。人格の分裂(Splitting)を招く。
4 対象を喪失したという
  事実を否認する

周囲の対応に対する観念の食い違いや、摩擦の原因ともなる。

対象を喪失したという事実を否認する幻覚的 、錯覚的、または無意識的に、現実否認を行う。

幻覚状態から醒めた時に、重い悲哀に襲われるという時間や感情のギャップに苦しめられる。
5 失った存在と一体化する
  取り組みをする

対象を全て自分の中に取り入れてしまい、コントロール下に置いて占有しようと試みる。

失った愛の大きさが、対象の存在を破壊してしまう。
6 投影同一視を繰り返す
他の対象に失った存在を投影し、またその対象と自分の内面をも同一であるかのように行動する。


鬱的な精神病理に傾いてしまった場合

自分を責め、悔やみや悲観を意識し、些細な理由でも罪悪感を強く訴える。
心身の活動力、免疫力は全て低下し、悲嘆的に死を願うようになる。
1 あまりの悲哀に
   留まってしまった状態

対象を喪失したという現実把握と吟味を繰り返すという、心の働きが麻痺してしまう。
そして、外的な世界との関わりが失われてしまう。

その為に、本人自身が、どういう対象を失ったのか、どんな具体的な対象との関わりがあって、
何について悲しみ怨んだりしているのかハッキリしなくなってしまう。

または、回想の中から特定の恨みが浮き彫りになり固執したり、対象への執着から深い罪の意識に
捕われてしまう。
2 生命力、免疫力の  
   低下を招いた状態

睡眠障害、食欲不振、慢性疲労、性欲減退、便秘。

何もする気力がなく、思考力も鈍り、心身の違和感、うつ気分に支配され生きて行く事がおっくうに感じられる。

心身回復の為の休養期間と考えるべき時間を認められずに、この生命活動の低下について不快なものと認識し、
それが一層の深い鬱状態を招く。
3 置き換えた(取り入れた)
    対象を責める
 

錯覚的、幻覚的な感覚が解けて代理対象との一体感や融合感が失われると、再びひどい対象喪失状態に陥る。

相手を自分と同一視し自分の中に取り入れていた為に、その合体感が失われると、
相手に対する激しい憎しみや怒りが起こる。
また同時に、その合体感を保とうとする執着心から、相手への恨みと共に、自分をも責めてしまう。
4 自己の存在感が
    失われてしまう

悲哀を棚上げし、仕事や社会活動、団体への献身に抑圧していた状態から、
自分ひとりの自己に気付いた状態。
とても不安定で傷つきやすい絶望状態が露呈する。

                               対象喪失による心身の衝撃
最初に事実としての知らせに衝撃的打撃を受け、突然の情緒不安定状態に陥る。
おろおろと取り乱し、思考能力の低下を起こす。
急性の不安症状を起こし、興奮、錯乱、とりとめのない言葉を口走ったり、泣き叫び、パニック状態になる。
心臓の鼓動が速くなり、呼吸が上がり、胸を締め付けられるような感じ、時には呼吸困難に陥る。

不眠、食欲不振、口の渇き、失神、手足のしびれ、歩行不能、などの様々な生理的随伴現象を起こす。
発作的自殺、絶望感からの異常な衝動的行動を引き起こす。
このような情緒や体の症状は、半年から1年は続けられるが、自責感や悔やみ、思慕の情などと共に、愛情と憎しみとの二価値、
アンビバレンスの状態を生み、仇討ち心理を呈する事もある。

日本は、心の傷による悲哀の感覚を感じることや癒しの時を持つことを棚上げにして、ただ強く歩き続ける姿が美徳とされる。
力の強い者を勝者と表現してきた。

最近では、癒しの時間を持つ大切さも、見直されてきている時代になりました。

弱い者を無視して進むスピード時代は終わりました。
後ろを振り返るのではなく、道の先がよく見えるようになるまで、立ち止まる自分へのやさしさを、覚える時代なのです。


心の健康というものは、憎しみ悲しみ不安がなく、幸せと満足感に満たされた快適で暗さのない、
明るいだけの世界の事ではない。

悲しみを悲しみ、怒りを怒り、恐れを恐れとして感知して受けとり、表現することが出来る状態です。

素直に正直に、自分の感じた悲しみ、怒り、恐れを表現し伝える事が、誰の迷惑になるというのでしょうか?

涙、愚痴、文句、悪たれ、憎しみ、怒り、恐怖を外へ出さないことの方が、不健康な心です。
不健康な世界から、健康な世界で生きられるようになりたいですね。。


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喪の作業は、その人それぞれの場面によって、形は違うので、専門的な指導を受けることをお勧めします。
当センターでも、グリーフ・ワークを個人とグループで行っています。


           

















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